[1998/7/20]

マダムの散策     

 [第2回] ジャポネスリー学会、長次郎の獅子瓦をアメリカで発見?、今月のアンティークジュエリーのクラスから


ジャポネスリー学会を聴講

ジャポニスム(芸術における日本趣味)については ご存知の方も多いと思いますが、 日本の浮世絵や工芸品が、19世紀後半に フランスの印象派の画家や芸術家、音楽家へ多大な影響を与えましたよね。 私はアメリカで暮らしていたせいか、それとも チッペンデールの家具に興味があったせいか、 最初はシノワズリー(中国趣味)一辺倒。 日常生活でも、シノワズリーのインテリアは まわりのアメリカ人達も好んで取り入れていたようです。

ところが、NY大学のアンティーク講座で、 シノワズリーのクラスをとった時に、 アメリカのジャポネスリーに出会ったのです。 ティファニー社をはじめ、Gorham等の19世紀後半に作られた銀製品でしたが、 銀製の器に銅で作られた蟹や、花の模様が立体的にはめ込まれたもの、 その美しさにすっかり魅せられました。 結局、私はシノワズリーやジャポネスリーの 東洋と西洋両方の文化を楽しめるもの、西洋の東洋趣味が好き。 それで、西洋アンティークから、 今度は日本の骨董を学びはじめたわけです。

工芸のジャポニスム展 さて、今年3月、東京都庭園美術館で、”工芸のジャポニスム展”が ありましたが、見に行かれた方もいらっしゃったのでは? (この展覧会、現在全国を巡回中。) 私は、この展覧会とともに、シンポジウムにも出かけたのですが、 ここで、ジャポネスリー学会に属される先生方のお話を聞き、 またまた興味を持ちました。

そして、6月末、この学会の例会を聴講させて頂くことになりました。 この分野での著名な先生方や研究家、大学院の方々の中に入ると 緊張してしまいましたが、論文発表やディスカッションは、 気持ち良いアカデミックな刺激を受けました。

また、途中からゲストとして来られたロンドンの ナショナル・ポートレート・ギャラリーの 館長チャールズ・S・スミス氏は、日本とイギリスの文化交流について コメントされたりと、盛りだくさんの1日でした。


楽 長次郎(初代)の獅子瓦にアメリカのアンティークショップで遭遇!
これはお宝発見なるか?

7月の初め、NY大学(NYU)のアンティーク講座で知り合ったYさんから エキサイティングなエアメールが届きました。 YさんはNY近郊のコネチカット州在住で、現在もアンティークの 勉強を続けていらっしゃるのですが、茶道にも造詣が深く、 クラスでも時々お手前を披露してくださったり。 ご主人は仏像コレクター、Yさん自身は アールデコが専門で、以前のお仕事ではパリで いろんな方を取材されたりと、経験豊富な彼女は とても楽しいお友達です。

さて、お手紙は、アンティーク・ギャラリーで、楽長次郎の獅子瓦を 発見したとのこと。金額はUS2万4000ドル。 以前、京都の楽美術館で見たものに比べると少々荒々しい感じがするけれど、 1550年頃のもので、サイン入り、状態もよく、美しく面白い。 以前はNYのコレクターのもので、その人の親戚が1900年頃 日本で買い付けたものだとか。 Yさんは、この希少価値と、不思議な巡り合わせに すっかり気に入り、手に入れたいなと思っているとか。 そこで、私に骨董学院の先生にご意見を伺ってほしいとのことでした。

”楽長次郎!”ですって。日本の骨董初心者の私でも 存じ上げている方です。(とはいえ、楽茶碗という 立派なお茶碗があるわよね、、という程度ですが。。) さっそく先生にお聞きしてみたのですが。。 そこで私の失敗その1。 Yさんがあまりにも気楽に買ってみようかなというものだから、 金額の桁を一桁間違えてしまいました。 私の金銭感覚では2400ドルぐらいならまあぱっと買ってみようかなとも 思えるのですが(奮発してね!)。。。 先生は2400ドルという金額設定はとても中途半端だとおしゃるのです。 楽長次郎初代の茶碗は、それこそ国宝級で、何千万円か、何億単位の話になるよ、と。 品物を見ていないからなんとも言えないけれど、それは偽物に決まっている、と。

で、金額の間違いに気づいた私は、恥ずかしながらまた先生に、 では2万4000ドル、そしてサイン入りではどうでしょう?と お聞きしたのですが、、、 骨董品の価値を考える時は、箱書きや、それにまつわる話など すべてを取り除いて、じっと品物の良さを見極めなければ、と。 今回の楽長次郎の獅子瓦など、もし本物だとしたら そのディーラーは日本にもってきて高く売るだろうし、 またはオークションに出すんじゃないかな、と。 2万4000ドルにしても、ちょっと無理をすれば 手が出るという感じの値段設定は一番怪しいと 思わないといけないとのことでした。。。

Yさんへ先生のご意見を伝えた私は今後のなりゆきを 見守ることに。。。

結局、その獅子瓦は本物なのか、そうとあれば美術館へ入るべき お宝発見ですよね。どうなるのでしょうか?

ちょうど今東京のサントリー美術館 に、その楽長次郎の 獅子瓦の本物が1つ出展されています。 なるほど、これが問題の獅子瓦かとじっくり見てまいりました。

ちなみに、当美術館で行われた講演会の説明によると、 楽の焼き物はアメリカでも大変人気があり、 メトロポリタン・ミュージアムなどでも、 分厚い”RAKU”という楽の作品に関する美術本がでていたり、 またRAKU様式の陶芸作品を作る若手作家も多いとか。。。 アメリカで突然姿をあらわした獅子瓦、 本物なのか、それともこのRAKU作家が作ったコピーなのか。。。 気になるところです。

サントリー美術館での ”楽茶碗の400年:伝統と創造”展は 8月9日まで。

左がアメリカからのもの、右がサントリー美術館 サントリー美術館のパンフとアメリカからのコピー 果たして? 英文でChojiroとありますが。。。


今月のアンティークジュエリーのクラスから

夏のバケーションにヨーロッパを訪れる方にちょっと情報です。 ドイツハイデルベルグ近くのフォルツハイムという町を ご存知でしょうか?

先生いわく、この町は中世よりギルド(職人同盟)の街、金銀細工師 の街として知られていたそうです。 この街にあるフォルツハイム装飾美術館が見所ということです。 ヨーロッパにはお城をはじめ、貴族たちの権力と富に よって集められたものを展示する博物館もすばらしいのですが、 ここはちょっとそれらとは異なり、 金銀細工の職人たちが、職人の目から見て 自分たちの制作のモデル、勉強材料となるようなものを 集めてきたものを展示していて、現在も職人達が 参考にしているということです。

私も一度この数百年におよぶすばらしいクラフツマンシップを 見てみたいと思っています。


初夏マダムが訪れたスポット


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