[2000/3/11]
[第9回] 武蔵野散策・ジャポネスリー・王室コレクション
西暦2000年 3月
皆様いかがお過ごしでしょうか?
寒い毎日ですが、私は久しぶりのジャポネスリーやアールデコ、ファベルジェに17〜19世紀世紀ヨーロッパ絵画や工芸品、輸出伊万里や明治美術、そしてハイカラな洋館に気分はすっかり古きよき時代へ。Mme.Chiyoko
1.冬の武蔵野散策 & 山の手ハイカラ散歩
平櫛田中館入口 |
日本近代木彫界の巨匠、平櫛田中(ひらくしでんちゅう)氏の晩年の住まい&アトリエが小平市に公開されています。平櫛田中の作品ファンの私は、早速行ってみることに。どの作品も本当に木彫りとは思えないほど、人物の表情がとてもリアルでどれも惹きこまれるような力がありますよね。彩色されたものは絹の着物かと見間違うほどの美しさです。
その平櫛邸は、冬の寒さと武蔵野の静かな空気のせいか、ぴんと張り詰めた静寂のなかに建つ日本家屋です。この清清しさと力強い静けさは、作品に通じているのですね。広々とした庭園を囲むようにすっきりと落ち着きのあるたたずまい。隣接する記念館では作品を鑑賞できます。
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小平市から三鷹市へ。大正時代の英国風の洋館。この建物は昭和11年から21年まで小説家山本有三が住んでおり、後に記念館となったものだそうです。1階には、ドローイングルームやサンルームがあり、趣の異なる暖炉が部屋の各所にあります。また白壁にダークウッドの梁やレンガ使いが素敵です。
当時の家具や調度品などはあまりありませんが、2階には彼の作品関係の資料、愛用品など展示されています。さて、資料によると、この洋館のオリジナルのオーナーは、清田龍之介という貿易商で、その人物の詳細は不明ながらも、当時小石川区音羽7-10に住所を登録していたそうです。
この住所は現在鳩山会館となっている鳩山家の邸宅がある所。また建物も、鳩山邸とも建築的な類似があるとか。。
これはやはりあの有名な鳩山邸も見に行きたいものです。
ロケにもよく使われる
バラの庭から見た鳩山会館
外壁に鳩と鹿のレリーフ
やわらかな日差しのサンルーム
鳩と五重塔のステンドグラス
巨大な盆栽!
蜜柑のなる木というわけで、丘の上に建つ大正時代の洋館、鳩山会館に。
写真や映像で時々見かけていたとおり、立派な洋館です。外壁に鳩のレリーフ、階段ホールには鳩と五重塔のステンドグラス、バラの庭に面したサンルームのアーチ窓、そして暖炉のある応接室。。。この洋風の雰囲気の中に、落ち着いた和室や、見事な盆栽の数々、、和と洋のマッチが魅力的です。
まだバラの花は咲いていませんでしたが、庭先にみかんの木が何本かあり、そこになっている蜜柑のオレンジ色が冬空に映えていました。
西洋家具に盆栽
フォーシーズンズホテルにてさて、散策のひと休みに近くにあるフォーシーズンズホテルへ。
シノワズリーとジャポネスリの調度品も素敵ですが、私の目をひいたものが、エンパイアスタイル風のテーブルに、またまた立派な盆栽がのせてあります。今回の散策では、盆栽の飾り方をいろいろ勉強させていただきました。
2.ジャポネスリー熱再び
NYUのアンティーク講座受講中のマダムからNY便りが届きました。
彼女がお知り合いの日本美術愛好家を訪ねた時のこと。
その方のお住まいは、マンハッタンの中心部のセントラルパークを見渡せるアパートメントですが、建物&インテリアがすべてジャポニスムで統一されていて、まるで奈良のお寺のよう!だったとか。
なんでも初代のオーナーが1900年代初頭に、日本美術をNYに広めたいと思い、住まいの外枠内部を美術館のように仕上げ、日本美術コレクションで飾っていたそうです。
(きっとロックフェラー家やバンダービルト家の全盛期だったgilded
ageの頃でしょうか。。それにしても、お寺のようなとはどんな感じなのかしらと、いろいろ想像してしまいます!)
現在のオーナーも日本美術コレクターなので、そのお寺のようなお住まいに、新たにアンティークの打掛を加えようとお考えとか。なんでも仏像を飾っていらっしゃる!ところに、いい打掛があればとのことだそうです。
そういういきさつで、NYUマダムからアンティーク着物専門の目黒の時代布池田か、原宿のオリエンタルバザーで現状をちょっと尋ねてほしいとの依頼が来たわけなのです。
私もアンティーク着物をゆっくり見たことはなく、興味を持ちましたので早速出かけることにしました。
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まずは時代布池田、そんなに大きなお店ではないけれど、アンティークの素敵な着物があるようですね。お店は忙しそうで、この日も凛とした感じの常連マダムがポンポンとお決めになっていました。雰囲気のある方の着物姿いいですね。
さて、残念ながら打掛はあまり取り扱っていないとのこと。池田コレクションには貴重なアンティークの打掛もいろいろあるそうですが、こちらは非売品とのこと。ショーウィンドウに飾ってあった上品でいて華やかな赤い打掛もきっとこのコレクションからなのでしょうね。
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次に原宿のオリエンタルバザーへ。なんとなくお店の前を通ることはあっても入るのはなんと初めて。地下にたしかにアンティーク着物や帯がずらっと並んだコーナーがありました。
長い黒髪を束ねたいかにもオリエンタル女性という感じの担当の方が、あまり着物に詳しくない私にもいろいろ説明してくださり助かりました。
アンティーク打掛は、明治期のものが1点、こちらは100万円ちょっと、あとは打掛ではないけれど婚礼時の振袖なら大正、昭和初期で数点10万円前後、また江戸時代のものなどもあるとか。昭和初期のものを1点みせていただきましたが、黒地に手描き模様、なかなかいいものとのことです。しかし、ぱっとみて華やかなものについ目がいってしまう私には、この渋い良さを理解するには、まだまだ勉強が必要なようです。奥深し日本文化。
さて、三越で東山魁夷展を見に行った際、偶然川島織物展に通り掛かり何気なく見ていて、またまた明治ジャポネスリーを発見。アンティーク物が展示されているコーナーに、1900年代前半、パリ万博やセントルイス万博に出品されたもののみごとな試作品や万博の様子を撮った写真がありました。
特にセントルイス万博で金賞に輝いたというタペストリーは本当に素晴らしいものです。私の好きな伊藤若冲の動植綵絵を模写し、日本画モチーフのタペストリーを作成、そして、そのタペストリーで若冲の間と名づけられた部屋すべてをカバーしたようです。タペストリーとなった日本画掛け軸が天井から壁までとは。そのスケールと技術、ジャポネスリの図柄に当時の人々は驚き、感動したそうです。
万博といえば、伊万里や薩摩というイメージがあったのですが、タペストリーなどの工芸品ももちろんあったのですよね。西洋と東洋の文化交流の感じられる明治の工芸品と当時の万博にあらためて興味惹かれる今日この頃、4月からは骨董学院で、明治の美術とジャポネスリーのクラスが始まるようなので、今から楽しみにしています。また授業の様子など時々お知らせしますね。
3.久しぶりのファベルジェ作品に歓喜!
東京国立博物館オランダ王室コレクションにて。
国立博物館
表慶館
ここから
オランダ王室コレクション!国立博物館の表慶館はレトロな洋館でお気に入りです。私はここに来るだけで楽しくなるのです。さて、現在そこでまさに建物にふさわしい展覧会が開かれています。
オランダ王室コレクション、久しぶりの17世紀〜19世紀のヨーロッパ家具、シルバー、陶磁器など美しい工芸品の数々嬉しくなりました。その中に1点、1895年頃のファベルジェの作品を見つけ本当に嬉しくなりました。展示No.58 エマ王妃のパラソルの柄の部分がファベルジェ作のエナメルと宝石細工で出来ています。小さな小さな部分で見逃してしまいそうですが、とても美しい輝きです。
日本語の作品説明にはあまり詳しく書かれていませんが、英文の説明にはファベルジェと明記されています。こんな小さな1点に喜ぶのは私ぐらいかもしれませんネ。ファベルジェは私の西洋アンティークの原点なのです!NYで最初にとったアンティークのクラスが、ファベルジェについてのものでした。担当だったハプスブルク博士の人柄と豊富な知識・経験、そしてファベルジェの作品の美しさに感動し、西洋アンティークについてもっと学びたいと思ったのです。さて、ファベルジェはNYでは美術館で簡単に見ることができても、日本ではあまり機会がないようで残念です。カール・ファベルジェはロシア王朝御用達の宝石商。サンクトペテルブルク生れ、カルティエなどで研修した後帰国し、父親の宝石店を継ぎ、アートジュエラーとして活躍。ロシア王朝の皇后マリアフェルドブナ(エマ王妃の母親)のお目にとまり、王朝御用達に。ギロッシュエナメルを使った七宝細工と宝石を組み合わせた作品は本当に美しいものです。特に有名なのは、そのエナメルと宝石で作られた”イースターエッグ”。皇后のために毎年作製を依頼され、ロシア革命で王朝が崩壊するまでは、ファベルジェも毎年見事なものを作っていました。イースターエッグといってもかなり大きな物で、エナメルと宝石の装飾の美しさはもちろん、なんといっても素晴らしいのは、そのエッグの中に何か仕掛けが組み込まれているのです。例えば宝石のたまごのなかから、小さな宝石の鶏が出てきたりなど。。驚くばかりの精密さです。
オランダ王室にはロシア王朝から王妃を迎えていたこともあったせいか、このファベルジェの作品以外にも、1800年代のロシア製の小物がいくつかあり楽しめます。その他ヨーロッパの様々な絵画をはめ込んだアートキャビネットや、王室晩餐会のテーブルセッティングを再現したコーナーなど、王室ものはやはり見ごたえがありますね。
4.マダムが訪れた美術展: